クリムト《接吻》を解説|金色・模様・崖際の二人は何を表すか

グスタフ・クリムト《接吻》の金箔、四角と円の模様、花の野原、崖際の構図を解説。黄金様式とウィーン分離派の背景、モデル説で確定していない点も整理します。

Art4編集部読了 11分
グスタフ・クリムトの絵画『接吻』
グスタフ・クリムト《接吻(恋人たち)》、1908–1909年、ベルヴェデーレ宮殿

《接吻》の金は、人物を豪華に飾るだけではありません。服と背景の境界を弱め、二人の身体を一つの大きな形へ包みます。その一方で、足元は花の野原の端にあり、安定と危うさが同居しています。平面的な装飾と触れ合う身体を同じ画面に置いたことで、この作品は甘い恋愛画だけでは終わっていません。

クリムト《接吻》の基本情報

クリムト《接吻》の基本情報
項目内容
作者グスタフ・クリムト
制作1908年、1909年完成
技法カンヴァスに油彩、金箔、金粉、銀、プラチナほか
寸法180 × 180 cm
所蔵ベルヴェデーレ宮殿(ウィーン)
原題Liebespaar(恋人たち)。一般にDer Kuss(接吻)

《接吻》は正方形の大画面です。1908年の発表時にオーストリア国家が購入し、現在までベルヴェデーレのコレクションにあります。クリムトの「黄金様式」が頂点に達した作品として扱われます。

クリムトが共同で創設したウィーン分離派は、保守的な展覧会制度から離れ、絵画、建築、工芸を分けずに新しい展示空間を作ろうとしました。《接吻》でも、油絵の人物表現と、金工・モザイク・織物のような装飾が一枚に結びついています。

なぜ金色なのか——奥行きを作る材料から、表面を見せる材料へ

ルネサンス以後の西洋絵画は、遠近法と明暗で、平らな画面を「向こう側の世界」のように見せてきました。金は光源を描かなくても現実の光を反射し、絵を、どこまでも奥へ続く空間というより、目の前にある貴重な物体として意識させます。

ベルヴェデーレの素材情報によると、《接吻》の金色は一種類ではなく、金箔、金粉、銀、プラチナ、真鍮などで作られています。素材ごとの反射の違いは、印刷や画面表示では同じ黄土色へつぶれてしまいます。実物では、見る位置を変えると衣服と背景の明るさが入れ替わります。

クリムト《接吻》の主な金属素材
場所素材見え方
衣服の人物部分金箔、金粉、銀、プラチナ、鉛、油絵具
背景叩いて薄くした真鍮を置き、透明な絵具を重ねる
効果見る角度と照明で反射が変わり、平面が静止せず揺らぐ

ベルヴェデーレは、金を単なる富の記号ではなく、人物を日常の空間から切り離し、平面と奥行き、官能性と象徴性を同居させる材料だと説明しています。

長方形と円の模様は、二人を分けながら一つにする

左の人物の衣には、黒、白、灰色、金の縦長の長方形が並びます。右の人物の衣には、円、楕円、渦巻き、花に似た色面が集まります。美術解説では、直線的な模様を男性性、丸い模様を女性性と読むことがあります。

ただし、この対応を普遍的な記号や作者の明記した暗号として断定はできません。画面で確かめられるのは、二人の衣服が異なる規則で作られ、輪郭が重なる中央では一つの大きな金色の形へ結びつくことです。

顔、手、足だけは立体的な肌として描かれます。身体の接触は具体的ですが、衣服は重力から離れた装飾面になっています。この切り替えによって、実在の二人と象徴的な「恋人たち」が同時に現れます。

二人は花の野原の中央ではなく、崖際にいる

足元には小さな花が密集し、その下は突然終わっています。右の人物の足先は画面下へ曲がり、花の縁のすぐ近くにあります。金の背景には地平線も建物もなく、二人が立つ場所の奥行きを測れません。

この端を「愛の危うさ」「女性が逃れられない状態」と読む解釈があります。確定した物語ではありませんが、画面の事実として、二人が安定した広い大地の中心ではなく、狭い花の縁に置かれていることは確認できます。

上半分だけを見ると、金に包まれた閉じた親密さが中心です。足元まで見ると、膝をつく姿勢、縁、空間のなさが加わります。《接吻》から伝わる感情は安心だけではありません。姿勢と場所の非対称からも生まれています。

題名は《接吻》でも、唇は重なっていない

左の人物は右の人物の頬または首筋に口を寄せています。右の人物は目を閉じ、片腕を相手の首へ回し、もう一方の手でその手を支えます。正面から唇を重ねる場面ではありません。

ベルヴェデーレは、クリムトが性的な成就の記号として実際の接吻を描くことを意図的に避け、二人が近づく緊張を捉えたと説明しています。題名が示す出来事の直前、または持続する抱擁として見ると、静止画の中に時間が生まれます。

顔の向きも対等な左右対称ではありません。左の人物の顔はほぼ隠れ、右の人物の表情は見る側に向けられています。二人の関係を考えるときは、模様だけでなく、手の重なり、首の角度、膝の位置を見ます。

モデルはクリムトとエミーリエ・フレーゲなのか

画家本人と、長年の伴侶とされる服飾家エミーリエ・フレーゲを描いたという説は広く知られています。しかし、ベルヴェデーレの作品説明は二人を特定の肖像として断定していません。モデルを確定する署名や同時代の記録がないためです。

クリムト周辺の人物との類似を検討することはできますが、《接吻》の二人を伝記上のカップルへ固定すると、作品が「恋人たち」という一般的な形へ広がる仕組みを見落とします。

《接吻》を見る順番

  1. 画面全体を正方形として見て、二人が占める面積を測る
  2. 左の長方形と右の円・花の模様を別々に辿る
  3. 模様が混ざり、二人の輪郭が一つになる場所を探す
  4. 顔、四本の手、足だけを見て、触れ方と力の向きを追う
  5. 花の野原の端を見て、二人の重心がどこにあるか確かめる
  6. 実物では位置を少し変え、金属素材の反射がどう変わるかを見る

モデルの有力説と確定情報を分ける読み方は、《真珠の耳飾りの少女》を科学調査から見る解説とも共通します。正方形の《接吻》をMacの横長の壁紙に使うと、画面を埋める設定では上下が大きく切れます。標準の中央での切り抜きでは、二人の顔が画面の外に出ます。作品全体を残すなら余白を許すか、切り抜き位置を手動で選びます。切れる範囲と顔を残す方法はクリムトの壁紙の記事にまとめています。計算方法はMacBookの壁紙サイズと縦横比で確認できます。

参考資料・作品情報

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