《長い首の聖母》の首はなぜ長い?パルミジャニーノとマニエリスム
パルミジャニーノ《長い首の聖母》の首や指が長く描かれた理由を、ウフィツィ美術館とテートの解説から読みます。首と柱を結ぶ聖母の賛歌、眠る幼子と壺、未完のまま残った右下の人物まで、事実と解釈を分けて解説します。

首も指も、膝の上の幼子も、不自然なほど長く伸びています。パルミジャニーノ《長い首の聖母》の首が長いのは、描き損じではありません。所蔵するウフィツィ美術館は、彫像のような聖母を意図的に引き伸ばした姿と説明し、隣の柱が首のしなやかさを強めていると書いています。その柱は、聖母をたたえる歌の一節を示しているのかもしれません。
首はなぜ長い?引き伸ばされた体と、隣に立つ柱
首が長いのは、パルミジャニーノが人体をわざと引き伸ばしたからです。 ウフィツィ美術館は、聖母の姿をミケランジェロを思わせる彫像のようだとしたうえで、その形は不自然に引き伸ばされていると説明しています。
右奥に立つ白い柱にも注目してください。美術館によると、聖母の左側(見る人から見て右)にあるこの柱は、胸から首にかけてのしなやかさを際立たせています。さらに、聖母をたたえる賛歌の一節「あなたの首は柱のよう(Collum tuum ut columna)」を示しているのかもしれない、とも書いています。
ここは二つを分けて読むところです。体が長く描かれていることは画面で確かめられます。柱と賛歌の結びつきは、所蔵館が「かもしれない」と添えた解釈です。
《長い首の聖母》の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式な題名 | 聖母子と天使たち(長い首の聖母) |
| 作者 | パルミジャニーノ(フランチェスコ・マッツォーラ、1503–1540) |
| 制作 | 1534–1540年(未完成) |
| 技法・寸法 | 油彩・板、216.5 × 132.5 cm |
| 所蔵 | ウフィツィ美術館(フィレンツェ) |
パルミジャニーノは本名をフランチェスコ・マッツォーラといい、生まれた町パルマにちなんでこう呼ばれます。高さ2メートルを超える祭壇画で、絵は1698年にメディチ家のコレクションに入りました。
マニエリスムの絵として見る:調和より、洗練された不自然さ
テート美術館は、マニエリスムを1520年から1600年ごろ、ラファエロやミケランジェロに続く画家たちが用いた様式と説明しています。巨匠の影響を受けながら、調和の理想をそのまま受け継ぐのではなく、技巧を見せる人工的な構図で洗練された優雅さをつくった、という定義です。
ウフィツィ美術館によれば、パルミジャニーノはパルマでコレッジョに接して学び、ローマでミケランジェロとラファエロの作品を研究しました。知的で風変わりな気質から、優雅で反古典的な様式を築き、エミリア地方のマニエリスムを代表する画家になりました。
ルネサンス盛期の聖母が釣り合いのとれた体で描かれるのに対し、この聖母は長い首と指で、優雅さそのものを見せています。美術史の流れの中での位置は、西洋美術史の流れのマニエリスムの節で、《モナ・リザ》と並べて紹介しています。
眠る幼子と、天使が差し出す壺
聖母の膝の上で、幼いキリストは眠っています。ウフィツィ美術館は、この眠りが十字架の上での死を予告していると説明します。天使が聖母に見せている壺には、磔刑の像が映っているとも書いています。
画面の左側には、天使たちが身を寄せ合っています。手前の天使は脚をあらわにしていて、美術館は、聖母の体に沿う衣の線や胸元に上げた細い手とあわせて、宗教画でありながらこの画家らしい官能性が残っていると指摘しています。
未完のまま残った右下:聖フランチェスコは片足だけ
1534年、エレナ・バイアルディ・タリアフェッリが、パルマのサンタ・マリア・デイ・セルヴィ聖堂のためにこの絵を注文しました。契約でパルミジャニーノは5か月での完成を約束しましたが、1540年に亡くなったとき、祭壇画はまだ工房にあり、未完成でした。
2年後、絵は予定どおりの祭壇に置かれます。そのとき、未完の理由を説明する銘文が柱の台座に加えられました。「FATO PRAEVENTUS F. MAZZOLI PARMENSIS ABSOLVERE NEQUIVIT」。美術館の英訳をもとに訳すと、「不運な運命に阻まれ、パルマのフランチェスコ・マッツォーラはこの作品を完成させられなかった」という意味です。
右下の小さな人物は聖ヒエロニムスで、巻物を広げながら、未完の人物、聖フランチェスコの方を振り返っています。画家は聖フランチェスコの片足しか描く時間がありませんでした。
《長い首の聖母》を見る順番
- 聖母の首と、右奥の柱の高さと細さを見比べる
- 顔から胸元の手へ、細く長い指をたどる
- 膝の上の幼子が、どの向きにどれだけ長く横たわっているかを見る
- 左の天使たちの中から、壺を差し出す天使を探す
- 右下へ移り、巻物を持つ聖ヒエロニムスと、片足だけの聖フランチェスコを探す
- 最後に柱の台座の銘文を見つけ、絵が未完のまま祭壇に置かれた経緯を思い出す
一つの疑問から一枚を読む記事は、ほかにもホルバイン《大使たち》の骸骨はなぜ歪んでいるかなどがあります。
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