《ムーラン・ルージュにて》の顔はなぜ緑?ロートレックが描く夜の光

ロートレック《ムーラン・ルージュにて》の右端にいる、緑色の顔の女性は誰でしょう。歌手メイ・ミルトンと電気照明の関係を所蔵館の解説で確かめ、色、手すり、視線から画面全体を眺めます。

Art4編集部読了 6分
ロートレック《ムーラン・ルージュにて》。テーブルを囲む人々の右手前に、顔を青緑と黄色で描かれた女性がいる
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ムーラン・ルージュにて》、1892–1895年、シカゴ美術館(1928.610)。Helen Birch Bartlett Memorial Collection。Wikimedia Commons、CC0

茶色い室内の右端から、青緑の顔がこちらを向いています。額は濃い緑、頬は黄白色、唇は赤。ロートレックの《ムーラン・ルージュにて》は、この顔が気になって目を離せなくなる絵です。まずは誰が描かれ、所蔵館がこの色をどう説明しているかを確かめます。

右端の顔が緑なのは、店の電気照明と結びついた表現

シカゴ美術館は、この鮮烈な緑の顔を、ムーラン・ルージュの電気照明による強い光と結びつけて解説しています。 ロートレックは人工の光がもたらす色の表現を楽しんだ、と同館は述べています。

顔を一色の緑として眺めず、額、目の周囲、鼻の下、顎へと分けて見てください。緑が強いところと、黄みのある明るいところが隣り合い、その間に赤い唇が見つかります。色の境がはっきりしているので、顔の各部分が急に浮き出すように感じられます。

これを「彼女の肌が実際に緑だった」という説明に置き換える必要はありません。ここで見ているのは、照明の下にいる人を画家がどう色で描いたかです。電球の種類や光の波長までを、この画像だけで特定することもできません。

「なぜ緑?」という問いから始めると、人物そのものだけでなく、その人がいる空間の光へも目を向けられます。

緑の顔の女性は誰?歌手メイ・ミルトン

所蔵館が右端の人物として挙げているのは、歌手の**メイ・ミルトン(May Milton)**です。顔の色の強さから架空の存在のように見えるかもしれませんが、実在した芸能者の姿として描かれています。

彼女の顔は画面の中央にありません。右の縁に近く、帽子の飾りや体の一部は画面の外へ続いています。それでも、テーブルを囲む人々より先にこちらへ近づいてくるような印象があります。

顔の周囲は暗い服で覆われています。顎の下から肩、袖へと見ていくと、黒に近い大きな形の中で、顔だけが明るく現れます。目を引く理由を考えるときは、緑の鮮やかさと、そのすぐ隣の暗さを一緒に見るとよさそうです。

表情が怖いと感じる人も、ぼんやりしていると感じる人もいるでしょう。その印象と、人物の性格や感情が実際にどうだったかは別です。「緑だから嫉妬を表す」と決める前に、照明、色の境目、顔の位置という、絵の中で確かめられるものを見てみましょう。

顔の緑は、部屋のあちこちにもある

右端の顔から背景へ視線を移すと、壁や鏡のように見える面にも青緑が広がっています。縦に伸びる色の跡、柱の間の暗い緑、室内に点々と置かれた明るい部分。顔だけを拡大していると見落としやすい色です。

次に、中央のテーブルを囲む人たちを見ます。横顔の頬や鼻の周辺にも、青や緑の色が入り込んでいます。右の女性ほど強烈でなくても、室内の光が肌の色を変えているように感じられる場所を探せます。

そこで、手前のオレンジ色の髪や、赤茶色の上着にも目を移してみてください。緑を追っていた目に、暖かい色が戻ってきます。青緑が部屋全体に均一に塗られているわけではなく、暖色と交互に現れることに気づきます。

暗い色の多い絵なのに、どこか落ち着かない。その感覚を覚えたなら、色の組み合わせを一組だけ選んでみます。緑の額と赤い唇、青緑の背景とオレンジの髪。同時に見る二つの色を変えると、画面の印象も変わるでしょうか。

手すりの向こうの客と、こちらを見る顔

画面左下から斜めに伸びる、太い茶色の手すりを見てください。絵の手前を大きく横切り、その向こう側にテーブルと椅子が集まっています。部屋全体を正面から見渡す位置には、私たちは立っていないようです。

手すりに沿って目を動かすと、座る女性の背中や椅子の曲線に行き当たります。テーブルの人々はそれぞれ違う方向を向き、一つの動作へまとまってはいません。そのため、誰と誰が話しているのかを、顔の向きから想像したくなります。

一方で、右端のメイ・ミルトンはテーブルの集まりから離れ、こちらへ顔を向けています。室内の会話を遠くから眺めていたつもりが、急に自分も見られているように感じる。その距離の変化を、画像の左右を往復しながら試せます。

シカゴ美術館の展覧会解説も、この絵の強い照明、通常とは異なる遠近の取り方、筋の定まらない場面を特徴として挙げています。人物の気持ちを一つに決めるより、見ている自分が落ち着く場所をどこに探しているか、という問いが似合う絵です。

ロートレック自身は、画面の奥を歩いている

中央奥に、帽子をかぶった二人の男性が並んでいます。シカゴ美術館は、背の低い方をロートレック本人、背の高い方を従兄弟で医師のガブリエル・タピエ・ド・セレランと説明しています。

さらに右奥では、両手を頭へ上げた女性が見えます。同館によれば、髪を整えている踊り子ラ・グーリュです。テーブルの手前で背を向けている赤毛の女性は、ジャヌ・アヴリルとされています。

すべての名前を覚える必要はありません。右端にはこちらを見る人がいて、奥には歩く人と髪を直す人がいる。動作の違いを拾うだけで、静止した集団肖像にも、ばらばらの時間が流れているように感じられます。

ロートレックを見つけてから全体へ戻ると、画家が同じ店の一員として画面の中にいることが面白く思えてきます。客席を観察する人であり、その客席に現れる人物でもある。その両方を、一枚の中で見つけられます。

《ムーラン・ルージュにて》の基本情報と、見比べる作品

作者はアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。シカゴ美術館は制作年を1892–1895年としています。油彩・カンヴァス、縦123 × 横141センチ。作品番号は1928.610、英題は At the Moulin Rouge です。

同じ店を題材にしたポスターや他の絵もあるため、画像を探すときには、シカゴ美術館のこの作品番号が確かな手がかりになります。今回の絵は、テーブルの人々と右端の緑の顔が一緒に描かれた油彩画です。

最後に右の顔を見てから、左下の手すりをたどり、中央の髪、奥の二人、背景の緑へと一周してみてください。最初は一人の顔だけが気になった絵の中に、別の色や動作が増えているでしょうか。

人が集まる場所の光を比べるなら、ルノワールの《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》では、服に落ちる屋外の光を見られます。色や視線から見始める方法は、絵画の見方でも紹介しています。

参考資料・掲載画像

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